運動習慣の低い方への運動指導のポイント10(後編)

ポイント6

運動習慣が低い方に、「運動を勧める」ことは困難です。

運動習慣のない人の割合日本のフィットネスクラブの会員数は、人口の約3%(385万人)と言われています。
これはアメリカ約14%(4000万人)やイギリス約10%(600万人)と比較して大きな差があります。
日本において自発的に運動しようという人間が少ないことは、この数字が物語っています。
運動指導を「運動を勧める」こととすると、運動習慣のない方に運動指導をするのは非常に困難であることは明白です。

ポイント7

運動の必要性をからだで体験して頂くことが重要です。

運動習慣が低い方に「エクササイズガイド」等で提唱される「生活活動」「身体活動量」を用いて運動の必要性を説明しても、効果的でないケースがあります。
たとえば、運動習慣のない方には自分の体力レベルや運動機能(度)が明確にイメージできないため、適切な運動強度や運動量の説明を受けても実践への動機づけにはなりにくいのです。
特に運動機能(度)については、個人差が大きく、たとえば運動習慣が低い方にウォーキングを勧めても、その方の体の状態によっては短時間で痛みが発生することも多いため、画一的な指導をさらに困難にしています。
前編でご紹介した実施機関様では、運動の必要性を自発的に理解していただくことに重点を置いています。
人が加齢とともに積み重ねてきた、各個人の身体の状況やゆがみを認識して頂き、その身体状況に合わせて運動指導をするサービスを提供されています。
受診者様は、運動の必要性を自らのからだで体験して頂くことが可能になります。

ポイント8

運動の前にからだで体験して頂くポイント(姿勢バランス能力)。

ストレッチ 運動運動習慣が低い方に共通するのが、バランス能力の低下です。
人は、二足歩行の動物であり、歩く・走る・跳ぶなどの基本動作のほとんどを二足で行うため、重心の確保が非常に難しく、また、利き腕・利き足など左右に得手・不得手があるため均等な動作がされていないのが現状です。
日常生活を過ごす上では利き手・利き足を主に使用していることで左右バランスの維持ができていません。
例えば、何気なく立っている姿勢でもどちらか一方に重心をかけ「休め」の姿勢をとっていたり、座って足を組むのは決まった方向であったり、洗濯物を竿にかけるのは決まって右であったりと無意識に偏った姿勢、動作を行っていることが多く、また必然的ではありますが右利きの方は、包丁も右で使ったり、荷物を同じ側にかけたりと、動作が習慣的になるほど姿勢バランス能力は低下すると言えます。

ポイント9

運動の前にからだで体験して頂くポイント(関節可動域の低下)。

人は、あるひとつの動作を行う際にも、多くの関節を介して動作を行います。
例えば、立っている状態から上半身を前屈してみると、股関節を屈曲させ、腰椎を前屈させ、大腿二頭筋を伸展させ、腹直筋を収縮させ、肩甲骨を外旋し・・と多くの関節・筋群の収縮・伸展・屈曲が同時に起こって動作します。
そこで人が自分の身体を動かすために使う関節としては、特に関節可動域の大きい肩関節・股関節・足関節・手根関節の可動性が十分に確保されているかが非常に重要といえます。
ひとつの動作を行う際に、多くの筋が連動して関節を動かすことを「運動連鎖(キネティックチェーン)」と呼びます。
この運動連鎖が低下すると動きがぎこちなくなったり、また動かない関節ができることで正常に動いている関節に必要以上の負担がかかり違和感や痛みにつながることがあります。
例えば、起き上がり腹筋の運動ができない人は、「私は腹筋が弱いから、起きあがれない」と思い込むことが多いですが、実は、起き上がる動作の際に本来腹筋の収縮と同時に、弛緩しなければならない背筋群が固くなっていて起き上がる動作を妨げているということがあります。
こういう場合は、腹筋の強化を図るよりも、背筋群の弛緩を促すことのほうが、先決かつ重要です。

ポイント10

日常生活における「習慣」の改善が運動習慣につながります。

運動をするシニア人は、できるだけ省エネルギーで活動しようと必要最低限の関節・筋群のみで動作を行おうとします。
最近、公共などの施設においてはバリアフリー(段差の少ないフロアー)の導入で、膝を持ち上げる動作が少なくてもいいような空間が多くなってきています。
つまり、膝を持ち上げる機会が少なくなると、その動作そのものの学習能力が低下し、関節可動域の低下をまねきます。
人がつまずく(転倒)メカニズムとして、三つの能力低下があげられます。
ひとつは、今出てきた膝を持ち上げる能力の低下、つまり膝を持ち上げるための大腰筋群の筋出力低下と大臀筋群・ハムストリング(太もも裏周辺の筋群)などの過緊張です。
二つ目は、足のつま先を持ち上げる能力の低下、前頸骨筋の筋出力低下と下腿三頭筋(ふくらはぎ)の過緊張、これは特に女性の場合かかとの高い靴をはくことで助長され、いわゆるこむら返りの原因ともいわれています。
三つ目は、加齢に伴う視力の低下です。
視力の低下によって、実際の段差と視認した段差との判断に誤差が生じ、脳から指示される必要最低限の動作しか行われないためにつまずきます。
しかし、視力低下については、一つ目の膝を持ち上げる動作と、二つ目のつま先を持ち上げる動作に余裕があれば、フォローすることが可能です。
日常生活の活動量からみると、住環境でマンション住まいなどの方においては洗濯物を高く干せない、食器棚が上にはないなど、腕を肩の位置より高く上げることが少なくなっています。
腕が肩より高く上げる動作が少なくなることで、肩甲骨の可動域が低下し、それが肩関節周囲炎の原因とも言われています。
日常生活における動作の繰り返しの「習慣」は、関節可動域が狭くなる方向に進みやすく、また一定の側(力を発揮しやすい側)を利用した行動が多くなり、これを「くせ」と勘違いする方が多くいらっしゃいます。
その姿勢動作の反復が原因でいろいろな症状が出ているとは気づきにくいものです。この「習慣」を自分で気づくもしくは第三者からの指摘により理解する機会を提供することで、自分の身体と運動への興味関心を引き起こし、生活習慣の改善を目的とした運動習慣につながります。

 

この記事を読んでいただきありがとうございます。

黒田篤

記事について:

黒田篤 ジースポート代表取締役

東京大学理学系研究科修士課程にて医療画像処理を研究後、ゴールドマン・サックスに入社しITおよびリサーチに従事。2000年にジースポートを創業後、姿勢や運動の計測・評価技術について多くの研究開発と商品化に携わっています。

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